理学療法と作業療法

リハビリテーション

はじめに

 サッカー選手はサッカーのルールを知っています。ギターリストはギターの特徴を知っています。棋士、騎手、調理師、美容師、行政書士など、どの分野においても、仕事ができる人ほどその仕事のルールや特徴を熟知しています。医療専門職でも例外ではありません。ルールや特徴は基礎中の基礎であり、必須中の必須知識であり、知っておかないと専門職とは言えません。もう一度初心に帰り学習しておきましょう。

法律における定義

日本の法律(理学療法士及び作業療法士法 第2条)では、以下のように定義されています。

理学療法(PT: Physical Therapy)
身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力(※1)の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。

作業療法(OT: Occupational Therapy)
身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力(※2)又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。


(※1)基本的動作
 「寝返り・起き上がり・座位・起立・立位・歩行・移乗・階段昇降」といった、
  人間が生活する上で土台となる最小単位の動き 

(※2)応用動作
  食事動作・整容動作・更衣動作・トイレ動作・入浴動作や日常生活動作(ADL)や
  家事、金銭管理、服薬管理、交通機関の利用、電話の対応などの手段的日常生活動作(IADL)


理学療法と作業療法の違い

第二章で説明した「適応」「手段」に「目的」を加えた側面から違いを説明していきます。

<理学療法>
 適応:身体の障害により、主に基本的動作能力が低下した者
 用法:治療体操、その他の運動、電気刺激、マッサージ、温熱、その他の物理的手段
 目的:主に基本的動作能力の改善を図る。

<作業療法>
 適応:身体又は精神の障害により、主に応用動作能力または社会的適応能力が低下した者
 用法:手芸、工作その他の作業
 目的:主に応用動作能力または社会的適応能力の改善を図る。

項目理学療法(PT)作業療法(OT)
適応(対象)身体の障害により、主に基本的動作能力が低下した者身体又は精神の障害により、主に応用動作能力または社会的適応能力が低下した者
用法(手段)治療体操、その他の運動、電気刺激、マッサージ、温熱、その他の物理的手段手芸、工作その他の作業
目的(ゴール)主に基本的動作能力の改善を図る主に応用動作能力または社会的適応能力の改善を図る

すなわち、PTとOTは、対象が部分的に違うのと、手段が違うのと、目的が違います。
つまり、PTとOTは似て非なるものなのです。
お互いの専門性を高め、お互いの短所をお互いの長所で補い合う事により、患者の能力を最大限に引き出す事が可能となります。

理学療法の治療手段

理学療法の治療手段をさらに詳しく解説します。

<理学療法の主な治療手段>
・物理療法 : 温熱療法・マッサージ・電気療法・超音波・牽引・極超短波 等
・運動療法 : 関節可動域運動・筋力増強運動・持久力増強運動・協調性運動・全身調整運動
・ADL訓練 : 理学療法士は基本的動作に着目するため、寝返り・起居・起立・立位・移乗・
        歩行・階段昇降 等の動作訓練を実施する

<重要ポイント1>
 物理療法と運動療法は麻痺や拘縮・筋力低下など、病気や怪我から生じる症状に対してアプローチします。
 もし物理療法と運動療法で全ての症状が改善するのであれば、ADL訓練は必要ありません。
 しかし、現実は症状が改善するまで時間がかかり、後遺症が残る場合も多々あります。
 後遺症があっても出来るだけ自立した生活をおくれるように(又は介助量を減らすために)、残った機能や福祉用具などを用いて動作能力を高めていく必要があります。ADL訓練は機能障害(疼痛・拘縮・筋力低下など)を改善させる目的ではなく、動作の熟練度を上げ上達させるという考え方になります。

 物理療法:機能障害( impairment ) に対して実施
 運動療法:機能障害( impairment ) に対して実施
 ADL訓練:能力障害 ( disability ) に対して実施

(具体例)
 1、右大腿切断・左下肢筋力低下によって歩行不可の症例
   右大腿切断という症状は物理療法・運動療法の対象外。筋力低下も回復段階。
   そこで義足と歩行器を使った歩行訓練によって、歩行器歩行(義足歩行)の熟練度を
   上げて歩行獲得を目指す。

 2、脳梗塞発症から半年経過 60歳 歩行器歩行遠位監視レベル
   中等度右片麻痺と軽度失行症をみとめるが改善はみられなくなっている症例
   杖歩行の上達による杖歩行獲得を期待し、杖歩行訓練を実施
   今後運動麻痺の改善は難しいと考えられるが、意識障害と知能障害がない事と、60歳と
   比較的若い事から、杖歩行の上達が見込まれる。
   
<重要ポイント2>
予防のための体操や運動は理学療法士の必須技術ではあるが、第2章で述べた様に治療は「病気や怪我を治す事」であるから、発症を防ぐための予防活動は治療には含みません。
また環境設定も理学療法士が求められる必須技術ですが、これも身体に直接働きかける「治療」とは区別されます。

<重要ポイント3>
 起立や歩行などの基本的動作は、ADL訓練だけでなく、運動療法(筋力増強運動や全身調整運動など)としても用いられます。

作業療法の治療手段

作業療法の治療手段は「作業」です

<作業とは>
 一定の目的と計画とのもとに、身体または知能を使って働くこと。 (出典:広辞苑 第七版)

作用の分類(作業療法士ガイドラインより)
   日常生活活動    : 食事、入浴、着替え、排泄など。
   家事・仕事     : 料理、掃除、育児、職場での業務、学業など。
   余暇・遊び     : 趣味、スポーツ、旅行、リラクゼーションなど。
   休息        : 睡眠、くつろぎなど。

 作業療法における「作業」を作業療法士に聞いたり、独自で長年調べたりしてきましたが、
 明確な答えは見つけられませんでした。
 おそらく「その人がその人らしく生きるための活動すべて」であり、それを取り戻す
 ための「手段」が作業療法における作業と言っていいでしょう。

もちろん作用療法でも作業を用いて関節可動域の改善を図ったり、筋力増強を図ったりします。
例えば高い所に手を伸ばす作業を行わせる事により、肩関節の可動域改善を図ったり、重量のあるものを移動させることにより、筋力増強を図ったりします。

 ちなみに、寝たきり状態で意思疎通が全く取れない患者に対して、作業を行わせる事は不可能な為、そういった患者に対して作業療法を実施することは出来ません。
 当然の如く作業できない患者は完全に適応外ですが、精神障害は作業療法の対象となります。(精神障害は理学療法の対象外)
 

補足

 理学療法・作業療法の治療手段や目的は完全に分かれているわけではなく、一部は重なります。
法律でも目的の項目において「主として」と明記されています。
移乗動作にしても、単なる移乗は理学療法の範疇ですが、トイレ動作や入浴動作など、目的をもって行う一連の動作の中の移乗は作業療法の範疇であります。
 ここで重要なのは、重複するのは一部であり、職域をむやみに侵さないという意識です。
仮に、理学療法士が作業療法を行い始めれば、作業療法士の存在意義が薄れてくるし、逆もまた然りです。
 作業療法の得意分野は作業療法士に依頼する。理学療法士の得意分野は理学療法士に依頼する。そうやって専門性を深めて行く方が、質の高い医療を提供する事ができると私は考えています。

終わりに

 音楽で例えるなら「ベース」が理学療法、ギターが「作業療法」だと私は思っています。
主に曲の大黒柱となるのが「ベース」、主に曲に彩りを与えるのが「ギター」といったように役割は違うのです。それぞれの特徴を活かすからこそハーモニーが生まれるわけです。

 またスポーツでも、どんなポジションもこなせる選手を育てるより各ポジションに特化した選手を育てた方がチームは強くなります。音楽でも会社でも病院でも、なんでもできる人を育てるよりある程度、各分野に特化した人材を育てた方が、間違いなくパフォーマンスは向上するのです。

 現在も理学療法と作業療法の違いをわかっていない療法士や間違って理解ている療法士が存在しています。

 お互いの長所を生かし短所を補い合っていくのが、理学療法士と作業療法士のあるべき姿であり、コンビネーションが噛み合ってこそ患者の能力をより引き出せる事になるのです。
 その当たり前の事が当たり前になればいいなと切に願っています。

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